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コラム

2022.12.06

国際標準規格ISO30414と人的資本の情報開示について解説します

昨今、HR領域において、「ISO30414」と「人的資本の情報開示」が注目を集めています。「ISO30414」とは、国際標準機構(ISO)が発表した人的資本=企業における人事、組織、労務に関する情報開示のためのガイドラインです。注目されている背景とは一体何なのか、具体的に何が記載されているのか、企業にはどのような対応や取り組みが求められるのか。改めて解説いたします。

ISO30414とは?

 ISO30414」とは、国際標準化機構(International Organization for StandardizationISO)が2018年に発表した、企業における人的資本の情報開示に特化した国際標準ガイドラインです。ちなみに「人的資本の情報開示」とは、人的資本(Human Capital=人間が持つ能力を資本として捉える経済学の概念)に関する情報を公表することで、自社の人材戦略を社内外に向けて定性的、定量的に明らかにすることを指します。「ISO30414」では、この人的資本に関する情報を「コスト」、「配置・異動」、「多様性」、「企業文化」など組織人事全般に関わる11の領域と58の項目で構成。これらはあくまでも指標であり、すべての項目を開示する義務はなく、開示内容は基本的に組織や企業に委ねられています。

 

ISO30414が注目される背景

 なぜ今、「ISO30414」が注目されているのでしょうか。一つにはリーマンショック以降、投資家から人材情報を開示してほしいという声が高まっていることが挙げられます。世界的に見ても、人材や組織の情報は企業への投資にたいする大きな指標になってきているということが言えます。そのため欧州では数年前から人材情報が開示され、2020年にはアメリカでも証券取引委員会(SEC)が人材情報開示の義務化を発表しました。こうした動向からも分かるように、今や欧米では、企業価値の大半は人材が占めていると言っても過言ではありません。企業の市場価値の構成要素が有形資産(モノ・カネ)から、研究力、アイデア、ブランドなどの無形資産へと移行する中、それらを生み出す人材のデータは投資家にとって非常に重要な情報であり、それをもとに投資判断が下されるというわけです。

 またその他にも、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)要素を考慮したESG投資や、SDGsへの関心の高まりなども「ISO30414」が注目を集める後押しとなっています。さらに日本では、経済産業省が2020年に、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」通称「人材版伊藤レポート」(一橋大学の特任教授である伊藤邦雄氏を座長として作成されたもの)を発表したり、東京証券取引所が2021年に「改訂コーポレートガバナンス・コード」を公表するなどし、「ISO30414」の注目度が年々高まってきています。

 

ガイドラインに記載されている主な項目

 ISO30414」には、以下の11領域と、それに紐づく58の指標が記載されています。

 

①コンプライアンスと倫理

ビジネス規範に対するコンプライアンスと倫理に関する指標。

②コスト

人件費や採用コスト、離職費などに関する指標。

③多様性

年齢・性別・障害の有無など多様性に関する指標。

④リーダーシップ

従業員の管理職や経営層に対する信頼度に関する指標。

⑤組織文化

エンゲージメント、満足度、リテンション比率などに関する指標。

⑥組織の健康・安全・福祉

健康経営や労働災害などに関する指標。

⑦生産性

収益、売上高、人的資本のROIなどに関する指標。

⑧採用、配置・異動、離職

従業員の採用・異動・離職に関する指標。

⑨スキルと能力

個々の人的資本の質と内容に関する指標。

⑩後継者の育成

次世代リーダーなど重要なポジションの後継者育成計画に関する指標。

⑪労働力の可能性

企業がどのくらいの労働力を確保できているかを示す指標。

 

ISO30414の活用と、情報開示に向けたポイント

 前述したように今や欧米はもとより、日本においても投資家観点からの人的資本に関する情報開示の重要性は非常に高まっており、「ISO30414」は今後、内外のステークホルダーから求められる情報開示のフレームの1つとして、活用が見込まれています。また一方で、社内においても定量的な指標を用いて人材情報を可視化することは、経営陣や従業員との対話に大いに役立つでしょう。

 今後企業には、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上に繋げる人的資本経営がより一層求められることになります。そしてそれを実現するためには、経営戦略や人事戦略をもとにKPIを定め、自社の施策を客観的に測定することが欠かせません。そこで鍵となるのが、HRデータとHRテクノロジーの活用です。ITツールやシステムを通じて自社内のHRデータを収集し、客観的に測定・分析することで、さまざまな施策に効果的に落とし込むことが可能となります。

 日本企業が企業価値を高めるために

投資家たちを中心に人的資本に関する情報開示のニーズが高まる中、国際標準化機構が2018年に発表した人事・組織に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」。認証制度や適用義務はなく、ガイドラインはあくまでも企業が任意で自発的に取り入れるものです。しかしビジネスのグローバル化が進む中、日本企業が生産性や企業価値を高めていくためには、今後国際的な運用ルールに沿った人事情報の開示を進めることが必須となっていくでしょう。
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