2022.10.05
有給休暇の時季変更権とは? 基本知識と行使のポイントについて解説します
Table of Contents
有給休暇の取得希望日を会社側が変更できる権利
有給休暇の時季変更権とは、従業員が希望した有給休暇の取得日に対して、会社側が変更を求めることができる権利のことです。原則、有給休暇の取得日は従業員が自由に決めることができますが、その従業員が取得希望日に休むことで事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更を求めることができます。
しかし大前提として、会社側は代替要員の確保や勤務シフトの変更を行うなど、その従業員が有給を取得できるよう努力する必要があります。そうした配慮もなく、繁忙期や人手不足など漠然とした理由だけで行使することはできません。またこれは、あくまでも時季の変更を求める権利であり、有給休暇の取得申請そのものを却下することもできません。
権利を行使できるケースと、できないケース
前述のとおり、行使できるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。では、それは具体的にどのような状況なのでしょうか。過去の判例を参考に、当てはまるケースを紹介します。
権利を行使できるケース
・代わりに出勤してくれる人員を確保するのが難しい場合
・その従業員にしかできない仕事があり、しかも締切まで時間がない場合
・その時期に休まれると、間違いなく業務に大きな支障が出る場合
・複数の従業員が同じ期間に有給休暇の取得を申請した場合
一方、以下のような状況の場合は行使することはできません。
権利を行使できないケース
・有給休暇が時効で消滅する場合
・退職予定日が決定しており、それまでの期間以上の有給休暇が残っている場合
・計画的付与制度を利用し、取得時季が決まっている場合
・行使することで、産後休業や育児休業の期間と重なる場合
さらに上記以外にも、代替要員の確保や勤務割の変更といった配慮をしなかったり、明確な理由がなかったり、また慢性的に人手が不足していたり、単に忙しい程度の場合などは、行使することができませんので注意しましょう。
トラブルに発展するリスクは避けよう
従業員が有給休暇取得を申請した際、会社側が正当な理由を持って時季変更権を行使してにもかかわらず、従業員がそれに応じず休んだ場合は、その日を有給休暇と認めず、欠勤扱いとすることが可能です。またそうしたケースでは、賃金を支払う義務がないのはもちろんのこと、場合によっては懲戒処分を検討するなど、厳しく対処する必要もあります。ただしそうした厳しい対処は、従業員とのトラブルに発展する可能性もあるので、慎重に行ってください。
一方で、従業員の有給休暇取得申請に対して、会社側が受け入れる努力や配慮もせずに、権利を無理矢理行使したり、「それなら代わりの人間を自分で探してこい!」、「悪いけど、今回は申請取り下げて。今度申請したときは絶対休ませてあげるから」などと権利を悪用・濫用したりすると、パワーハラスメントと見なされ、従業員との間で訴訟問題に発展するリスクもあります。時季変更権は、会社側が自分たちの都合で一方的かつ自由に行使できるものではありません。有給休暇取得は従業員の権利であり、しかも時期や目的も従業員が自由に決められます。会社側は従業員の希望を叶えるべく考慮したうえで、それでもどうしても変更してもらう必要があるときのみ、行使することができるのです。
日常的なコミュニケーションも大事に
時季変更権は繁忙期や決算期など多忙な時期であっても、代わりの人員を何とか確保できるのであれば、可能な限り行使しないに越したことはありません。また権利を会社都合で濫用した場合や、正当な理由を以って行使しても従業員が変更を拒否して出勤しなかった場合などは、その後トラブルに発展するリスクがあるので注意しましょう。そうしたトラブルを事前に防ぐためにも、就業規則に時季変更権の詳細を明記し従業員に周知しておくことが重要です。また前もって相談や調整ができるように、日頃から会社と従業員、あるいは上司と部下の間でコミュニケーションを密に取っておく必要があります。