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コラム

2022.10.05

時間単位年休の基礎知識と運用ルールについて解説します

労働基準法第39条により、事業主は従業員への有給休暇の付与が義務付けられています。さらに2019年4月からは従業員が年間5日の有給休暇を取得することが義務化され、休暇に対する意識改革や取り組みも着々と広がってきました。しかし「休みを取りづらい」と感じている労働者はまだまだ少なくなく、日本の有給休暇取得率は依然として低い状態が続いています。そうした中、有給休暇取得率アップの鍵として期待されているのが、時間単位年休です。そこで今回は、制度の基本的な知識や運用ルールなどを解説いたします。

時間単位年休とは?

 時間単位年休とは、文字通り、時間単位で年次有給休暇が取れる制度です。年次有給休暇は1日もしくは半日単位の取得が原則ですが、労使協定の締結により、1年に5日を限度として、時間単位で取ることができます。

 例えば、午前中に1 時間どこかに寄ってから出勤したい場合、従来は半休を取って用事を済ませるケースが大半でした。しかし、1時間休みが欲しいだけなのに、結果的に34時間も休むことになっては、せっかくの有給休暇が無駄使いになってしまいます。その点、時間単位年休ならば、実際に用事に費やした1時間だけを有給休暇として取得できるのです。ちなみに5日を超えて取得することはできません。もし5日を超えた場合は、そこからは通常通り1日単位での有給取得となります。

 時間の単位は、最大で就業規則に規定されている所定労働時間、最小で1時間となっており、30分などの1時間未満での取得はできません。また、半日休暇と異なり、時間単位年休であれば中抜けも可能です。さらに時間単位年休が残った場合は、翌年に繰り越すことができます。繰り越す場合、翌年度に時間単位で付与される年休の日数は、繰越し分も含めて年5日以内です。ちなみにこれは有給休暇取得義務の5日には含まれず、それぞれ管理する必要があります。

 対象者は企業が任意で決められます。職場によっては、従業員が時間単位年休を取得することで、正常な事業運営ができなくなる可能性もあるでしょう。従って、特定の業務に就く従業員を制度の対象外とすることは可能です。しかし、原則的に従業員は有給を自由に利用することができますから、「子どもの送迎」「通院」など利用目的によって対象範囲を限定してはいけません。また、業務に大きく支障をきたす場合には、企業側に時季変更権の行使も認められます。

時間単位年休のメリットとデメリット

 時間単位年休には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。企業、従業員それぞれの立場から見ていきましょう。まず企業側のメリットとしては、有給休暇が取りやすくなるため、自ずと有給の消化率も上がります。またこうした施策の導入によって、従業員のワークライフバランスに積極的に取り組んでいることが認知され、企業の社会的価値や採用ブランドの向上にも繋がるでしょう。一方で、有給取得のバリエーションが増えるため、企業側の管理業務が煩雑になるというデメリットがあります。また、時間単位年休を取る従業員が増えすぎてしまうと、逆に1日単位での取得が減少し、まとまった休養を与えるという有給の本来の意義が薄まってしまう恐れもあるでしょう。

 では従業員にとってのメリットは何でしょうか。例えば、有給休暇が今までよりも気軽に取れるようになる、仕事の途中で抜けることが可能になる、有給取得の選択肢が増える、ワークライフバランスに繋がる、といった利点が挙げられます。しかし一方で、時間単位年休の取得が促進されると、企業側のデメリットと同様、1日単位の有給取得率が減少し有給本来の趣旨が損なわれる恐れがあるため注意が必要です。また、時間単位年休には取得日数に上限があるため、時間単位年休がどれくらい残っているのかを管理・確認する手間が増えることも考えられます。

労使協定で定める項目とは?

 時間単位年休を制度として導入する場合、事前に就業規則を変更し、労使協定を結ぶ必要があります。労使協定で定める項目は、以下の4点です。

 ➀対象範囲

対象となる従業員の範囲を定めます。前述した通り、事業の正常な運営を妨げる可能性がある場合に限り、一部の従業員を対象外とすることが可能です。

 ➁日数

日数を年5日以内の範囲で定めます。

 ③1日分の時間数

1日分の有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを定めます。

 ④1時間以外の時間を単位とする場合の時間数

2時間、3時間など、1時間以外の時間を単位とする場合は、その時間数を定めます。

時間単位年休に対する賃金の計算方法は?

 時間単位年休1時間分の賃金額は、以下のいずれかの金額を用いて計算します。

 

①平均賃金

②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

③標準報酬日額

時間単位年休1時間分の賃金額=「上記①~③のいずれか」÷「その日の所定労働時間数」

(参考:厚生労働省『改正労働基準法 3.年次有給休暇の時間単位付与』

 

どの金額をベースにするかは企業の任意ですが、時間単位年休に対して支払う賃金の計算方法は就業規則に定めなければなりません。

働きやすい環境づくり実現のために

時間単位年休とは、1年に5日を限度として時間単位で年次有給休暇が取得できる制度です。とかく休み下手と言われる日本人ですが、働き方改革が加速し、有給休暇の取得率向上が求められている昨今、有効な一手として、導入する企業はますます増えることが予想されます。また有給休暇の消化促進だけでなく、ワークライフバランスの実現、企業の社会的価値向上など、企業にとっても従業員にとっても、さまざまなメリットがあります。ぜひこの制度を有効に活用しながら、有給休暇取得の柔軟なルールを作ることで、働きやすい環境づくりを実現させましょう。

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