2022.05.27
同一労働同一賃金とは? メリットや導入のポイントについて解説します
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正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁止
同一労働同一賃金とは、パート・アルバイトや、契約社員、派遣社員に対して、正社員と比べて不合理な待遇差を設けることを禁止するルールです。日本社会ではバブル崩壊後の(図参照)、待遇の低さや正社員との格差が深刻化。このことから雇用形態を問わず、従業員を平等に扱うことが社会的課題となっていました。こうした問題を受けて、2020年4月に施行されたのがパートタイム・有期雇用労働法です。実は従来のパートタイム労働法や労働契約法においても不合理な格差は禁止されていましたが、今回の法改正によって、それがさらに強化・明確化された形となっています。企業は、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくすための規定を整備し、労働者に対して待遇に関する説明義務を果たさなければなりません。
●図 正規・非正規雇用者数(出展:総務省統計局)
同一労働同一賃金の対象者は、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者などの非正社員で、正社員同士や非正規社員同士、他社の社員との待遇差については、この法律の適用対象外となっています。また同一労働同一賃金はあくまで努力義務であり、ルールを遵守しなくても、企業が罰則を受けることはありません。しかし、合理性のない待遇を受けた労働者から損害賠償を請求する訴訟を起こされる可能性はあるため注意が必要です。
非正規社員の納得感が高まり、生産性向上にも繋がる
同一労働同一賃金が導入されると、非正規社員の待遇が改善・向上し、非正規社員の満足感や納得感、さらには仕事に対する意欲や責任感が高まっていきます。そして意欲や責任感が高まると、自ずと職場の生産性も高まり、結果的に企業の業績アップにも繋がるでしょう。また、同一労働同一賃金を導入している企業には、人材が集まりやすいというメリットもあります。人材不足が深刻化し、パート・アルバイトの採用も難しくなってきている中、いまだに不合理な賃金格差を放置していては、求職者から選ばれる会社にはなれません。採用活動において自社を選んでもらうためには、非正規社員に対しても一定の満足感や納得感を提供することが必要不可欠になるでしょう。
一方、同一労働同一賃金には少なからずデメリットもあるので、注意が必要です。例えば、同一労働同一賃金を導入するために、正社員の賃金を下げるのは望ましい対応策とは言えません。厚生労働省もガイドラインの中で、労使合意なく、正社員の待遇を非正規レベルに引き下げて格差を解消する手法を「望ましくない」と明記しています。ということは、当然のことながら非正規社員の賃金アップが必要になります。また賃金だけでなく、福利厚生や教育訓練などの処遇も改善するためには、その分の費用負担も増すでしょう。
同一労働同一賃金の導入に向けて押さえておくべきポイント
まずは正社員と非正規社員の職務内容を明確にすると同時に、待遇格差の有無など、現状をしっかり把握しましょう。では具体的にどのような点をチェックすればよいのでしょうか。例えば、雇用形態が違うという理由だけで、不合理に低い基本給を設定してはいないか。また賞与や役職手当においても、不合理な差を設けてはいないか。さらに収入面以外でも、社員食堂や休憩室、更衣室など福利厚生施設の利用や、有給休暇、慶弔休暇の取得などに制限がないか…といった項目がチェックポイントになります。不合理な待遇差かどうかについては、パートタイム・有期雇用労働法第8条にて、「個々の待遇ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき」と明示されていますので、それぞれのケースで各社が個別に判断する必要があります。
もしもこれらの点で待遇格差が確認され、それが同一労働同一賃金のルールに違反すると判断される場合には、早急な見直しが必要となります。見直す方法は非常にシンプルです。例えば、賃金制度を見直す場合、正社員には支給されているが、非正規社員には支給されていなかった手当を非正規社員にも支給するか、もしくは手当そのものを廃止するか――いずれかを検討しましょう。一方で、もしも能力や業績、役割などに明確な違いがあり、待遇に差をつけざるを得ない場合は、その理由を明確にし、さらに可視化して、会社全体で情報を共有しなければなりません。
判断に迷った際や同一労働同一賃金についてより詳しく知りたいときには、厚生労働省が策定した「同一労働同一賃金ガイドライン」を活用してみましょう。また国や各都道府県では解決に向けたアドバイスや援助も実施しています。困ったときは、ぜひ相談してみてください。
●同一労働同一賃金ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
●働き方改革推進支援センター
非正規雇用労働者の待遇改善に取り組む事業主に対する無料の相談支援(電話、訪問)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198331.html
●キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
まとめ
これまでの日本では、業務内容を問わず、正社員と非正規社員の間には待遇の格差があり、それが当たり前のように容認されてきました。しかし1990年代以降、非正規雇用労働者の増加に伴い、雇用形態による経済格差が大きな社会問題になりました。そうした背景の下でスタートしたのが同一労働同一賃金です。これにより現在では、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差は禁止されています。同一労働同一賃金を導入することで、非正規社員はもちろん、企業にもたらされるメリットも少なくはありません。非正規社員の待遇が改善され、仕事に対するモチベーションや責任感が高まり、その結果、会社の生産性向上や人手不足解消に繋がることが期待できます。まずは現状をしっかりと把握し、正社員と非正規社員との間に不合理な待遇差がある場合は、早急に改善すべく、対策を進めましょう。